金環食の そのあとで…
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


       




2012年 5月21日(月)午前 7:30前後から、
日本の広い範囲で“金環食”という天文ショーが観測出来るとか。
太陽の出ている時刻に、
太陽と地球の間へ月が割り込む格好となって陽の光を遮るのだそうで。
縁も余さずすっかりと太陽を覆ってしまうのは“皆既日食”だが、
月影の縁から僅かほど太陽の縁をはみ出させて残すのが、
陽の煌きの部分を金の環のように見せるため、
そんな呼び方をするのだそうで。

 「真っ暗にはならないらしいですね。」
 「ええ。
  なので、注意して待ってないと、
  うっかり気がつかないかも知れないんですってよ?」

あと、
UVカット加工をされてあっても、
サングラスなどを通して観るのは危険だ、だとか、
時間が時間なので、登校中によそ見をする子供が増えかねず、
いっそのこと登校時間をずらそうという小学校も多い、とか。
1987年の沖縄以来、本州だと実に1883年以来であり、
次に見られるのは北海道で2030年とかいう事象なだけに、
それへまつわる様々な情報が
ワイドショーやら情報バラエティなどで扱われたものの、

  でもでも、一番に取り沙汰されたのは
  当日の朝方は
  雲の多い天候になりそうだという
  ちょみっと残念な懸念だったりして……。




      ◇◇



いつぞやの“皆既日食”の折は、
朝っぱらから雨が降ったにも関わらず、
始まる時刻に近づくほどそれも落ち着きの、
でも曇天には違いなかったり…と、
さんざんに振り回された地域が多かったのに比べれば。
今回のは、この時期の早朝特有の曖昧な明るさから、
所により薄日が差し…という、
まま救いのある明るい中で迎えた格好。
はっきりくっきりとは見えなんだところでも、
ご親切にテレビでの中継があったので、
理科のお勉強という範疇では
十分に意味のあった現象ではなかったか。

 『ですよね。真夜中の月食なんてのは、
  小学生には観察しろと言っても無理がある代物ですし。』

 『………。(そうそう。)』

 『私も何度か観察に挑戦したことがありましたが、
  大概は、始まる時間まで粘れたら御の字で、
  その後の記憶はないってのばかりでしたもの。』

いつの間にやら、月がらみの現象じゃあっても、
夜中の月の満ち欠けの観察の話になっているのがご愛嬌だった、
毎度おなじみ、女子高生の“三華”の皆様は、
早めに出て来て学校で観測するなぞと、
自主的に何かするならともかくも、
学校サイドからのあれやこれやには縁もなかろ…と思いきや。
系列の幼稚舎と初等科が、
やはり朝の始業時間をずらしたとのことで。
ついでというか、それならばというかで、
残りの午前中の授業では、
ちょっと詳しい内容の講義が“お浚い”という名目で行われることとなり。
それへの講師役に、
高等部の地学担当の教諭やシスターもお運びになるがため。
急な時間割変更の刷り合わせが突貫で行われた結果、
なんと高等部の方までもが、
遅いスタートにお付き合いすることとなってしまったのだとか。
天文学部などに所属の、関心の高い子らはといえば、
早々と登校して専門の機材で観察するという話だが。
そこまでの期待はしてないクチのお嬢様がたは、
お家でゆったりと観測をしてののち、
せいぜいご学友とのお喋りのネタにするくらいかと。
そしてそして、ウチでのお馴染み、
例の3人娘はといやぁ………。




 「美味しい〜〜〜vv」

滅多には観られぬ“金環食”に
まるきり関心がなかった訳じゃないが、
何とも曖昧なお天気となったため、
その取っ掛かりまでは肉眼の目視で見届けたものの、
後は合理的に、テレビの中継でもってお茶の間観測と洒落込んだのが、
八百萬屋のひなげしさんこと、林田さんチの平八お嬢様。
朝っぱらから某国民的アイドルがMCを努める豪華な番組よりも、
本来のお役目は電波塔で、
明日から開場という東京の新しい顔、
標高634mのスカイツリーよりも、

 「ゴロさん、ゴロさん、
  この切り落としの煮付け、凄く美味しいんですけどっ!」

朝からそんなお元気な感嘆を洩らしておいでの食いしんぼう。
小ぶりのお手々にお似合い、そりゃあ小さめのお茶碗なのは、
せめてものヲトメ心の現れ…ではなくて。
お料理自慢の許婚者さんが、
そりゃあ多彩なお料理やらお総菜やら
毎食毎食たっくさん並べて下さるものだから。
モノによっちゃあ、ふんわりよそいたてのご飯で食べたいと、
頻繁にお代わりをしたいがため…というから うがってる。

 「濃いめの砂糖醤油の甘辛に
  ショウガの風味がぴりりと利いてて。
  牛肉のいいお出しも甘辛にしっかと合ってるし。
  何といっても、ここまで煮付けているのにボソボソしてないっ。」

咬めば じゅわっと肉の旨みがあふれる奥の深さっと、
くぉ〜〜〜〜っと大きに感動しておいでのお嬢さんなのへ、

 「そうまで喜んでもらえたか。」

遅ればせながら、お味噌汁をよそって来た椀を手に、
大柄な男性が居間へとヌッと現れて、
そりゃあ嬉しそうに笑って応じて下さる。

 「弁当のおかずにしようと思ったのだがな。
  こんなゆっくり構えていられるのならと、
  弁当のほうはもっと凝ったのを詰めたぞ。」

 「ええ〜、これより凝ったのって何でしょか。」

いまだ現役、
だがだがさすがにスイッチは入れてないコタツでの朝ご飯も、
今日のは微妙に遅くてのんびりしたそれで。
いつもだったら、平八のほうもだが、
店の開店準備のほうも丁度忙しい頃合いなのでと。
ご飯こそ支度してもらうものの、
五郎兵衛は店へ行ったきりになるものが、

 「高校生までゆっくり登校になろうとはの。」
 「ウチは特別ですよ。」

だったらだったで、
いつもの三人で“観測会だ”なんて言い出すのかと思っておれば、

 『いや、それはありませんて。』

何でも久蔵殿が朝には弱いとのことで。
そのまま旅行に行くのでとかいう、
電車や飛行機の都合へ合わせた待ち合わせならともかく、
そこまでするほど関心もないしの天体ショー。
各々で観測して“見た?”と示し合わせるくらいで丁度いいのだとか。

 『シチさんも、
  前の晩にお父様の知り合いのお祝いの席に顔出しするとかで。
  それが遅くなったなら、
  いつもの時間にだって起きられるかどうか、
  自信ない〜〜って言ってましたし。』

それこそ“金環食”を観られなかったらどうしてくれるって。
一応はクギ刺しといたから、
大丈夫だとは思うけどって言ってましたが、

 『どうせなら、思う存分遅寝をしたかったですのにって。』

余裕で大人を振り回す小技まで、
ペロッとご披露しちゃうのは女子高生らしいのかも知れないが、
一応の流行ものだったら何にでもキャッキャはしゃがない辺り、

 “そういうところは、少々 十代離れしているというか。”

時々思わぬところが老成しておいでのお嬢さんたち、
こういうものへはキャッキャ言わないんだねぇと、
保護者の皆様、一様に意外だと声を揃えたのは後日の話だが。

 “金環食様様だよんvv”と、

ご当人はといや、
美味しい朝ご飯と、お店の方の仕込みを終えたゴロさんとを
しやわせだ〜〜〜っと、
うっとり噛みしめておいでの ひなげしさんなのだから。
うんうん、平和だねぇ。

 「ほれ、こんなところに米粒が。」
 「あやや…。///////」

口元から外れた頬の端、一体どんな弾みでそんなところへ飛んだやら、
ご飯粒がくっついたままだったのを摘まんでもらって、
あややぁと照れたのも束の間、

 「あ〜〜〜っ。///////」

それをそのまま、ぱくりと食べてしまった壮年殿だったので、
どひゃあと真っ赤になったひなげしさんだったりして。

  うんうん、平和だ平和だvv




      ◇◇◇



金環食の影響で、
サマータイムならぬ、遅出の登校と相成って。

 「……。」

こちら様でも、
それは豪奢な、洋館風の正面玄関からとぽとぽと、
ゆるやかな傾斜(なぞえ)を下って下って正門まで。
金の綿毛を爽やかな朝の風に軽やかに揺らしつつ、
紅ばらさんとあだ名されておいでの お嬢様が、
学生カバンを手にさげてのセーラー服という、
すこぶるつきにポピュラーないで立ちで、
登校にというお出掛けにおなり。
そちらでは運転手のおじさまが待ち受けており、
黒い鉄格子の二枚合わせの大門を、
手づから開けてくださってのお見送り。
日頃からも表情が乏しいお人なせいでか、
年嵩のお相手へも ついつい小さな会釈しかしないお嬢様なれど。
そんな目礼さえ読み取れるのは長年のお付き合いの賜物で。
無愛想にさえ見えたよな、
凛とした寡黙な横顔からでさえ、
ああ今日もお元気だなぁと、
何がお楽しみなのか溌剌としておいでだなという、
細かいところまでもを把握出来てしまうほど。
ここいらはいわゆるお屋敷町なので、
三木さんのお宅に負けず劣らず、
それは立派で瀟洒なお屋敷が数多く連なっている、
見るからに閑静なところなのだが、

 「よお、久蔵じゃねぇか。」

少々遅いめの登校ということもあってのことか、
いつも以上に通学通勤の人影もない町中だったが、
そんな中をゆくお嬢様へ、気安いお声を掛ける人物がこれありて。
そちらさんも今からお出掛けか、
門からではなく道路へ直に出て来られる掘り込めのガレージから、
大型バイクを引き出しながらという若い男衆。
肩から背中へかかり掛けという長髪を、
どういう意味があるものか、鮮やかなピンクに染めている。
仲間とロックバンドでも組んでいるものか、
レザーのライダーズジャケットの下には、
なかなかサイケな色調のシャツを着ておいでで。
そんな男衆が、目の前の歩道をすたすたと通り過ぎてくお嬢様へ、
下の名をしかも呼び捨てという乱暴さで呼びかけたのへ。
自分の無愛想は棚に上げ、
他人の無礼にはきっちり厳しいはずの紅ばらさんが、
だっていうのに、

 「…。」

ぴたりと足を止め、素直に呼び止められて差し上げたのは、
こちらの彼とは付き合いが長いから。
よって、そういうざっかけない態度へも慣れがあり、
彼の側でも、

 「何だなんだ? こんな中途半端な時間に。寝坊したか?」
 「〜〜〜。(否、否、否)」

かぶりをふったので“違う”というところまでは判るとして。
そのまま無言で頭上を指差して見せたお嬢様だったのへ、

 「そか、金環食のせいで遅出になったか。」
 「………。(頷、頷)」

金髪頭になかなかの美貌という、際立った存在だというに、
権高な人柄だって訳じゃあないし、内気だなんてとんでもない。
実をいや…見かけによらない“ずぼら”から発する彼女の寡黙さへ、
手話とも違う独特な読心術のようなもの、
きっちりと身につけているところが、ある意味すごいこちら様は。
こいのぼりがご縁で顔馴染みとなったご近所さん、
弓野さんチの長男坊で。
幼いみぎり、
ついついからかったお嬢様から見事な二段蹴りを食らって以降、
顔を見りゃあ挨拶や会釈をするし、
同じ方向へ向かうなら、立ち話程度の会話(?)も交わす間柄。
どっちが上でも下でもない、
強いて言や、どちらもが自分の方が上だと思っていそうな、
腕白同士なまんまのお付き合いだってところがまた、
見目麗しい双方だのに、ややもすると残念なところかと。

 「何だったら送ってこうか?」

彼もまた今から外出か、
今時の高校生にしては結構な筋骨が薄着からも伺える、
一端の屈強な腕でもって引き出した、
限定解除らしい大型バイクを視線で示したものの、

 「〜〜〜。(否、否、否)」

送ってもらうのへの遠慮か、はたまたバイクが嫌だったものか、
ぶんぶんぶんと、やや強めにかぶりを振ったお嬢さんだったのへ、
特に気を悪くすることもなく、
あっはっはっと快活に笑ったお兄さん。
ハンドルへ引っかけてあったフルフェイスのヘルメットをかぶると、
長い御々脚振り上げて長い目のシートへヒラリとまたがり、
じゃあなっという意味か、
人差し指と中指を揃えて立てて振って見せる彼で。
バルンバリバリというイグゾートノイズは、
多少けたたましかったけれど。
特にどこかに細工をしているようでもなくの、
威嚇という格好の騒音でもないままに、
静かな住宅街を発進してゆく雄牛のような

 “…確か、ぜはー”

ゼファーです、紅ばら様。
そんな、荒い息遣いみたいな名前じゃありません。(笑)
不良という訳でもなく、むしろ気立ては快活でお人善し。
少々浅慮なところがあるのは昔から変わらずで、
それが原因の喧嘩じゃ何じゃもなくはないらしいのだが、
気がつきゃ、
ここいらのやんちゃたちをまとめるリーダー格に収まっているとか。
そんな幼なじみを見送ってから、

 「……。」

さ、ガッコへ急がなきゃと、
遠くなるバイクの後から、再びのんびりと歩き始めた久蔵だったが。

 「…おい、そこの。」

どこからのそれだか、
不遜な声かけがあったのはあっさりとスルーして、
駅までの道、てくてくと歩み出したのだけれども。

 「待てよ、」
 「シカトかよ、お嬢様よ。」

どこやらのお屋敷の外壁の陰にでも隠れていたものか、
何人かのやはり男衆がわらわらわらっと、
歩道いっぱい、人の壁をこさえるように沸き出て来ての、
セーラー服姿のお嬢様へと通せんぼを仕掛けるものだから。

 「???」

何だなんだと目許を眇めた久蔵だったのも含め、
妙な雲行きだと気がついたのが。
ずんと遠く離れかけていた、
まずは弓野くんが、バイクのバックミラーの中に見やってのこと。

 「あれ? あいつら…。」

他人のことは言えないが、
ここいらにはそぐわぬ、柄の悪そうな顔触れが、
相手を瀬踏みするような目付きでもって、
可憐なお嬢様をじろじろと、眺め回しの睨み回しのし始めており。

 “こんなとこまで伸して来やがったとはね。”

そんな面々に、
実は見覚えがあるらしかった
こちらのお兄さんだったのだけれども。

 “俺の連れか何かだとでも思ったのかねぇ。”

先程のやり取りが、
学校へ出向く前の爽やかな会話にでも見えたのか。
だとしたら、

 “ありゃあ、ヤバいかもなぁ。”

彼への遺恨がある顔触れが、
本人へは人柄でも喧嘩でも
バイクのライディングでも敵わんからという代替、
弱みとして目をつけたものか。
相手はか弱そうなお嬢様で、しかもお一人。
ツンとした面差しといい、
手入れのよさげなお肌に、
その深い色合いは染めた訳じゃあないだろうと、
やんちゃ筋にも気づかせるほどの金の髪といい。
どこからどう見ても良家のお嬢様らしいから、
ちょっと凄むだけで震え上がるだろうと見越したか。
にやにや笑って歩み寄るのを
少し遠くから見やった弓野くんが“ヤバいなぁ”と案じたのは、



  …………………って、
  思わせ振りな言い方も今更白々しいですね。(笑)


 「…っ。」

なあなあと肩に手を置こうとでも思ったか、
すいと延ばされた手から、
優雅だが俊敏に一歩後ずさって身を避けたお嬢様。

 「ありゃりゃ、嫌われたぜ。」
 「ツレないねぇ。」

仲良くしようぜと言いつつ、
つついて泣かそうというのがありありしており。
とはいえ、そっちの空気はあいにくと読めないお嬢様。
ただ、遅刻したらどうしてくれるという方向で、
ムカッとは来たものだから、

  空いてた右腕をぶんっと下向きに軽く振ったその途端、
  制服の袖口から飛び出したは、毎度おなじみの特殊警棒であり。

  「え…?」

冷ややかに凍ったようだったお顔は、
決して恐怖に強ばっていたからじゃあなくて。
これでも“イラッと来ました今から排除にかかります”という、
結構果敢なお顔だったりするのだと。
そこまでを読み取れたのは、

 「お嬢様、おカバンを。」
 「………。(頷、任せた)」

いつの間に駆けつけていたものか、
先程 門扉を開けて下さった運転手さんがすぐ傍らに立っており。
無言のまま 手渡されたカバンを、
白手套をはめた手で大事そうに抱えて さささっと後ずさり。
こういう揉めごと、
しかも抜刀済みの段階へ(刀じゃないけど)下手に手出しをするのは、
気位の高いお嬢様の矜持に傷をつけるからで。

 「ご存分に。」

それは慇懃そうに45度の角度で頭を下げつつ、
そうという一言がそのまま、お嬢様へのGOサインとなる辺り、

 “あのおっさんも、おっかねぇ〜〜〜。(笑)”

お嬢様の白い御手にて、ひゅんっと振り上げられた警棒が
何を叩き出すかも判っておいでの幼馴染み殿。
あ〜あと苦笑を零しつつ、
お気の毒なチンピラどもの阿鼻叫喚、
切れ切れの悲鳴を、
気の毒になぁと同情しつつ聞く羽目になったのでありました。








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 *金環食と関係ない話です、すいません。(大笑)
  残るシチちゃんはと言うと……。うふふvv


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